我々は、誰しもが心身ともに元気に最期まで自宅で暮らせることを実現できる「次世代型社会保障体制/次世代型地域包括ケアシステムのデザイン」を目標課題として、これまで研究開発を進めている。
この目標課題に対し、「超高齢社会に向け、生涯現役を可能にする自立と社会参画を促し、誰もが排除されず、幸福な全世代型地域共生〈共創〉社会の実現」を目的として、主に、①より早期からの健康づくり・フレイル予防を目指したエビデンスに基づく生活総合支援産業の更なる活性化、②持続可能な社会保障制度に向けた定量的な評価に基づく医療・介護・社会参画の政策立案、という2点につき研究を推進している。
特に①では、「国保データベースなどの医療・介護データベースを横断的に活用した、より早期からの介護予防システム強化」を検討しており、フレイル状態になるリスクを予測する人工知能(AI)を検討している。実は、地域での高齢者の個体差が大きく存在するにも関わらず、個々人の特徴をあまり配慮せず同レベルの運動教室などが推奨されている現実もある。そこで我々は、AIの出力と医学の専門的知見により、「住民の一人ひとりに合わせた、エビデンスベースのオーダーメイドのフレイル予防方法」を研究している。また②では、「GDPあたりの高齢者の医療・介護費」に向け、「地域高齢者データベースを活用したシミュレーションによる政策提言・評価」のアプローチを検討している。具体的には、FEM(Future Elderly Model)というモデルを活用し、11の慢性疾患(糖尿病、心疾患、がん等)と3つの状態(自立度、ロコモ度、認知度)の人口動態を数十年先まで予測可能なシミュレータを開発中である。これにより、疾病予防の施策はもとより、高齢者就労や社会参画に関連する税制や就労制度の効果を予測する方式を確立していきたい。
本研究では、以上①、②を柏市・柏の葉において実証を推進していく。
道路、上・下水道をはじめとする都市のインフラは老朽化が進んでおり、自治体の厳しい財政環境の中での維持管理が課題となっている。人口減や社会保障といった自治体の解決すべき課題が山積する中、いかに生活の基本となるインフラの維持管理を両立していくかを提案することを目的としている。
生活を支えるインフラは、本来の目的以外にもさまざまな価値を住民の生活にもたらす。
例えば、歩道の幅や段差を整備して、ハンディキャップのある方や高齢者も外出しやすくする施策をインフラ維持管理と同時進行で展開したり、雨水をためる調整池を平常時は憩いの場として整備するといった、従来のインフラ維持管理に新しい価値を付与し、地域の生活水準の向上や付随する効果を発掘することが、このテーマのターゲットとなる。
このようにインフラに起因する価値創造のためには、自治体の置かれている状況を的確に把握し、限られた財政の中で最適な施策を見出す必要がある。私たちは、Society 5.0の掲げるデータに基づいたマネジメントに着目して、地域の課題把握手法とインフラを取り巻く価値創造をインフラの管理データなどを活用して可視化、定量化する研究を展開している。
本研究テーマは、日立東大ラボが2017年度から取り組んできたPhase 1、2020年度から取り組んでいるPhase 2の多岐にわたるテーマの中で横断的に探究されてきたSociety 5.0型スマートシティの考え方とビジョン、方法論、技術、実践知を世界に発信し、世界の都市とのコラボレーションを加速させる活動を展開する。Society 5.0のキーコンセプトである「人間中心の社会」「経済成長と社会課題解決の両立」「サイバー空間とフィジカル空間の融合」は、日本をはじめ世界各国においてこれからの都市像となっていくだろう。日立東大ラボではこれまでの実践と成果を基に、世界各国のスマートシティの実務者やリーダー、専門家とのネットワークを築き、世界標準の共通基盤構築のためのフレームワークやナレッジの共有を進めていく。
地域創生のためのデータ駆動型都市計画手法を確立する。Phase 1で開発・検討を行ったCity Probeによる行動データ収集の継続と充実化、その多様なデータを集約する都市データプラットフォーム(City Data-Spa)の実現、データに基づいた都市活動シミュレーション(City Sim)の充実化、その結果を可視化するツールであるCity Scopeの機能充実などを、松山市や松山アーバンデザインセンターなどの関係者とともに進め、エビデンスベースのまちづくりを支援していく。またその際、Covid-19パンデミックがもたらした様々な社会課題への対応を探索するとともに、交通、脱炭素、観光振興、事前復興など次世代の地域社会に必要なテーマについて検討と社会実装を進める。
現在、世界中のさまざまな都市でスマートシティの実装が進められている。そのスマートシティのあり様は、それぞれの社会背景に応じて多様である。例えば、エネルギーの効率的な利用を促すもの、都市サービスの無人化・AI化により効率性・網羅性を高めるもの、などなど。
それでは、来るべきSociety 5.0にふさわしいスマートシティのあり様は一体どのようなものであろうか。日立東大ラボでは、2017年から2019年のPhase 1においてSociety 5.0型スマートシティのキーコンセプトである、「人間中心」「価値創造型」「サイバー空間とフィジカル空間の高度な融合」「データ駆動型都市計画」「共生自律分散都市」などについて議論を深めてきた。
本サブワーキングのテーマは、これらのキーコンセプトを適切に取り入れたSociety 5.0型のスマートシティを実現するためのプロセスをデザインすることである。そのために、めざすべきSociety 5.0型都市像・スマートシティ像を想定し、バックキャスティング的に現在からのプロセスを検討していく方法をとる。得られた成果は、現場の実務者の方々をはじめとし、広く関係者へ向けて発信し共有していきたい。
データの利活用はSociety 5.0型スマートシティの根幹をなす要素の一つと考えられるが、従来のスマートシティ研究では、保有するデータを社会で広く利活用し都市のサービスを生み出していくための事業モデルが十分に検討されてこなかった。そこで本研究ではバリューフローの考え方を新たに取り入れ、スマートシティのデータが電力や水道のような社会のインフラとして今後将来に渡り継続的に使い続けられるための産業構造と事業モデルを明らかにする。
スマートシティのデータインフラは、センサー、保守・管理、処理、サービスの機能で構成されている。これに様々な分野の事業者が実験的に参入し、都市のサービスが創出・運用されることになる。しかし、持続的なインフラとしての機能を担保するためには、データインフラ全体のバリューフローを見渡し、参入事業者が個々に事業性を担保しながら連携し全体が機能するように運用していくこと(オーケストレーション)が特に重要となる。本研究で得られる成果は、このオーケストレーションのためのルール作りや運用を考えるにあたって重要な指針となることが期待される。
QoL(Quality of Life:生活の質)は、物質量から質への価値転換が起きている現在、「健康」を、身体性のみならず、心理、社会的関係、周囲の環境といった日常生活の質を含めて評価する指標として考案された概念である。本研究はこの概念を都市計画分野に拡張し、スマートシティに暮らす人々のQoLを定量的に求めることにより都市の開発や運用の評価を行おうとする試みである。
これまで都市の価値を測る汎用的な物差しとして緑や商業施設などの面積や数が使われてきたが、これらの適正値はあらゆる人にとっての平均値から導き出されたものであり、必ずしもそこに住む人々の満足につながっているかどうかはわからない。ある都市に暮らす一人ひとりの生活と満足度を観測できるツールとそれに基づいた新しい都市評価指標を開発し実用化することで、技術偏重になりがちなスマートシティ開発を人々の多様な暮らしにきめ細やかに寄り添うインクルーシブな都市へと導くために欠かせないフィードバックとなることが期待される。
スマートシティを巡る専門分野は、都市計画や情報技術、デザインや分析・シミュレーション、またはマネジメントや実装など、これまではあまり連携をしてこなかった組み合わせが少なくない。来るSociety 5.0の時代のスマートシティに向けて、既存の専門性を、スマートシティというテーマの下に連携させていくことができる人財の育成が急務である。また、多様な専門性を持つ人財たちが、場面に応じて適切に連携し、効果的な協働を可能とするためのネットワークの形成も欠かせない。本ワーキングでは、これらの人財育成とネットワーキングのためのプログラムを検討する。
柏の葉ではこれまでディベロッパーを中心とした公民学の高度な連携によるまちづくりが展開されてきた。また2019年より「エネルギー」、「モビリティ」、「パブリックスペース」、「ウェルネス」をキーワードに据えたスマートシティ実現に向けた取り組みが進められており、これらの取り組みを介して集まるデータを横断的に利活用しより良いサービスを生み出すための「データプラットフォーム」の構築に取り組んでいる。
しかし公民学の先進的取り組みが進む一方で、そこに暮らす住民が参画し共創する場が不足していたことから、改めて住民を含めた多様なステークホルダーによる都市のオープンイノベーションのあり方と場の作り方、持続的な運営手法を整理する重要性が浮き彫りとなっている。
本取組は、中でもスマートシティの基盤となるデータプラットフォームに着目し、人間中心のデータ活用・サービス創出を実現するための市民参加手法をフィールドでの実践を通して構築する。柏の葉スマートシティで立ち上げが進行する、市民との共創拠点(リビングラボ)に参画しながら、地域に根差した社会実装を実現させる。
スマートシティの機能の中核を占めるデータとAIの活用に際しては、個人情報保護法の遵守ということにとどまらずプライバシーやAI倫理などの新たなガバナンスモデルが求められるようになってきている。同時にこれらのガバナンスをサービスのデザインに埋め込んでいくことで、社会受容性を高めることが可能になる。本研究では、これら国内外の個人情報保護、プライバシー保護に関わる法制度の潮流を踏まえ、スマートシティにおけるデータ利活用の在り方を検討し、具体ユースケースを題材に、ガイドライン策定に向けた調査研究を行う。また、スマートシティ全般に関わる、国内外のデータルール整備の在り方の検討及びその提言に向けた研究を行う。